惣菜は中食として多くの消費者に利用されています。
しかし、飲食店のように作ったものをすぐに食べるのとは違い、購入して食べるまでにある程度の時間が経過します。
そのため、惣菜店ではHACCPに基づいた衛生管理の取り組みが重要になります。
今回は、惣菜店のHACCPの取り組み方法について解説します。
惣菜店の需要は増えている
一般社団法人日本総菜協会による「2023年版惣菜白書」では、2022年の惣菜市場規模は前年対比103.5%の10兆4,652億円ということが分かっています。
新型コロナウィルスの感染拡大をきっかけに一時は落ち込んだ惣菜市場は2019年の10兆3,200億円と比較しても101.4%とコロナ以前の水準に回復しています。
惣菜市場の成長の背景にあるのは単身世帯や共働き世帯の増加、さらに新型コロナウィルスの影響によるテイクアウト需要の増加です。
惣菜店はその他の飲食業と比べてコンビニエンスストアやスーパーとの競合があるものの、地域の特性や顧客のニーズに応じたメニュー展開がしやすい点でも優位な立場にあると考えられます。
惣菜店は飲食店以上に衛生管理に注意が必要
惣菜は飲食店のように出来立ての料理を目の前でお客さまが食べることとは異なり、お客さまがいつどのような状況で食べるのか分かりません。
店頭で惣菜を購入したのち、一時間以上移動したあとテーブルの上に数時間放置してから食べる、という可能性も考えられます。
惣菜店ではさまざまな料理を作るため品数が多く、季節ごとにメニューを変えるなど変更も多いため、飲食店と同じようなHACCPが必要です。
小さな惣菜店では「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」への取り組みを行う
2021年6月に制度化されたHACCPに沿った衛生管理は事業者によって取り組みが2種類に分かれます。
「HACCPに基づく衛生管理」は大規模事業者が対象となり、より簡略化された取り組みの「HACCPの考えを取り入れた衛生管理」は小規模な営業者が対象となります。
小規模な営業者とは、
①食品等の取り扱いに従事する者の数が50人未満の小規模な製造・加工等の事業場
②製造・加工した食品の全部又は大部分を併設された店舗において小売販売する営業者
③飲食店等の食品の調理を行う営業者
④容器包装に入れられた食品または包まれた食品のみを貯蔵、運搬、又は販売する営業者
⑤食品を分割して容器包装に入れ、又は包んで小売販売する営業者
です。
HACCPの考え方を取り入れた衛生管理の取り組み方法
HACCPの考え方を取り入れた衛生管理の取り組みでは、
1.衛生管理計画の作成
2.手順書の作成
3.記録保存
の3つのステップを行います。
1.衛生管理計画の作成
衛生管理計画の作成では「一般的な衛生管理」に加えて店舗の「重要管理点」を決め、衛生管理計画書にまとめます。
HACCPで管理するのは加熱温度、時間や急速冷却時間などの重要管理点です。
一般衛生管理はこれまでと同様に行い、原材料の管理や調理温度、保管温度など、店舗にとって必要なHACCPの仕組みを考えます。
2.手順書の作成
清掃、洗浄、消毒、食品の取り扱い等についての具体的な方法を定めた手順書を作成します。
手順のなかで特に厳重に管理する必要がある「重要管理点」についてはリスクについても明記します。
手順書を作成することで作業が標準化され、どのスタッフも一定の品質の業務ができるだけでなく、新人教育にも役立ちます。
3.記録保存
衛生管理の実施状況を記録・保存します。
記録を残すことで、クレームや食品事故が起きた場合に原因の追及や再発させないための措置の構築を速やかに行えます。
記録をしていない場合、管理をやっていないとみなされてしまうため、毎日ありのままを記録することが大切です。
また、記録はいつでも取り出せる場所に保管します。
一般衛生管理
衛生管理の策定では、「一般衛生管理」と「重要管理点の管理」を行います。
一般衛生管理ではHACCPの基礎となる調理環境の衛生管理を行います。
・従業員の入室確認・健康確認
・原材料の受入確認
・施設の点検
・ネズミやゴキブリなど病原菌媒介や異物混入につながる有害生物は発生していないか?
・冷蔵、冷凍庫の温度確認
・調理機器点検、清掃・殺菌確認
・調理器具の洗浄確認
・トイレの清掃確認
・手洗い
重要管理点の管理
重要管理点とは、調理工程など、一般衛生管理以外の範囲でさらに徹底管理するべき重要なポイントを指します。
惣菜店の場合、次のように分類して重要ポイントを押さえます。
加熱後包装する惣菜(煮る、揚げる、焼く、蒸す、炊く)
食中毒菌の大半は85度、90秒以上の加熱により死滅するため、通常の調理温度であれば食中毒の危険性を抑えられます。
調理後の盛り付け等による菌の再付着を防止することで安全が保たれます。
包装後加熱する惣菜(袋入り惣菜・密閉容器入り惣菜)
包装されたものを加熱することで包装資材内で殺菌を行い、そのあとに外部の空気が直接中身に触れることがないため、菌の再付着を抑えることが可能です。
レトルト食品は100度でも死滅しない菌を120度、4分以上加熱し完全殺菌して常温保管できるようにした製品です。
ただし、常温で放置すると菌が増殖を始めるため、包装表示を確認し、「要冷蔵」の食品は冷蔵庫での保管が必要です。
加熱しないで洗浄・殺菌する惣菜(サラダ類・おひたし類)
生野菜などの熱による殺菌ができない食材は薬剤による洗浄・殺菌を行います。
通常は塩素を使用しますが、さまざまなタイプの殺菌剤があり、それぞれの効果、味、匂い等を考慮して使用されます。
加熱及び洗浄・殺菌しないで包装する惣菜(おせち・パーティープレートなど)
惣菜はさまざまな組み合わせのおかずを作りますが、おせちやパーティープレートはその典型で、すべての惣菜を1つの製造工場でつくることはなく、かまぼこや煮豆など、専門業者から仕入れて詰める場合もあります。
その場合の盛り付け時などに菌の再付着を防止することで安全性が保たれます。
従業員全員でHACCPに取り組む
惣菜店が押さえておきたいHACCPの取り組みについてご紹介しました。
食品衛生法の改正により、2021年6月からは小規模の食品事業者を含め、すべての食品事業者がHACCPに沿った食品衛生管理の取り組みを行う必要があります。
取り組みについて何から始めたら良いのか分からない、という場合は専門家にサポートしてもらいながら導入していくと安心です。