最近、食品事業者による食中毒発生の報道が続いています。
食品事業者は、消費者に安全な食事を提供し、食中毒による事故を防がなければなりません。
今回は、HACCPの衛生管理による食中毒、ノロウイルス対策の方法をご紹介します。
食中毒発生状況
まずは厚生労働省が発表している近年の食中毒の発生状況を見ていきましょう。
食中毒事件発生件数の推移
事件発生件数 | 患者数 | |
2020 | 887 | 14,613 |
2021 | 717 | 11,080 |
2022 | 962 | 6,856 |
2023 | 1,021 | 11,800 |
食中毒の発生件数、患者数は、平成15年からの統計では減少傾向です。しかし、ここ数年は発生件数が上昇傾向にあります。
2023年の食中毒の原因別発生件数
厚生労働省が発表した2023年の食中毒発生事例(速報)では、
食中毒の原因別発生件数は以下のような結果となっています。
病因物質 | 事件発生件数 | 患者数 |
ノロウイルス | 163 | 5,502 |
カンピロバクター | 210 | 2,083 |
ウェルシュ菌 | 28 | 1,098 |
サルモネラ属菌 | 25 | 655 |
アニサキス | 432 | 441 |
腸管出血性大腸菌 | 19 | 265 |
ぶどう球菌 | 20 | 258 |
クドア | 22 | 246 |
その他病原大腸菌 | 3 | 116 |
植物性自然毒 | 44 | 114 |
化学物質 | 8 | 93 |
その他ウイルス | 1 | 28 |
動物性自然毒 | 13 | 15 |
セレウス菌 | 2 | 11 |
腸炎ビブリオ | 2 | 9 |
その他寄生虫 | 3 | 4 |
その他細菌 | 1 | 1 |
その他 | 5 | 592 |
不明 | 20 | 269 |
合計 | 1,021 | 11,800 |
発生した食中毒のなかで、特に患者数が多いのが、ノロウイルスです。
12~3月の冬季は、ノロウイルスなどのウイルス性の食中毒が発生しやすい傾向にあり、
春や秋はほかの時期に比べて自然毒による食中毒が発生しやすくなります。
また、アニサキスのような寄生虫による食中毒は、年間を通して発生する傾向があります。
HACCPの食品衛生管理による食中毒対策
HACCPの食品衛生管理による食中毒対策は次の3ステップです。
1.衛生管理計画の作成
2.実行
3.チェック・記録・保管
さらに定期的に振り返りを行い、食品衛生管理計画を刷新していくと、より安全で衛生的な食品の提供を目指せます。
HACCPへの取り組み方は厚生労働省のホームページに各業界向けに手引書が公開されていますので、
手引書を参考に次のように進めていきましょう。
1.衛生管理計画書の作成
衛生管理計画書(HACCP計画書)は「一般衛生管理計画書」と「重要管理計画書」の2つで構成されます。
一般衛生管理計画書に盛り込む内容は次のとおりです。
・原材料の受入れ
・冷蔵・冷凍庫の温度の確認
・考査汚染・二次汚染の防止
・従業員の健康管理
重要管理計画書では、製造工程のなかから危害要因分析(ハザード分析)を行い、特に管理すべき工程を記載します。
製造・調理する品目ごとに手順書を作成したら、メニューを「非加熱のもの」「加熱するもの」
「加熱後冷却し再加熱するものまたは加熱後冷却するもの」の3つに分類し、それぞれ管理方法を決めます。
2.実行
1で作成した内容を業務のなかで実行していきます。
計画した内容を確実に実行するためには、従業員全員がHACCPに取り組む理由を理解している必要があります。
実際に作業を行う従業員の意見も取り入れ、現場に合った手順書を作成し、改善していくことも大切です。
3.チェック・記録・保管
実行した結果を毎日記録します。
問題があった場合は事実をそのまま記載し、対応方法を記載します。
記録は1年間は保管し、保健所から提示を求められたらすぐに見せられるようにしておきましょう。
食中毒予防三原則
食中毒は「つけない」「殺す」「増やさない」の三原則に注意していれば
発生リスクを大幅に下げられると言われています。
1.つけない
食中毒の原因の多くは、ノロウイルス、病原性の細菌、寄生虫です。
そこで、どの食材にどのような細菌やウイルス、寄生虫が付いているか、知識を持っておくことが大切です。
HACCPでは危害要因分析に該当します。
細菌の多い食材はよく洗浄する、場合によってはさらに殺菌・消毒するなどの対応をします。
また、納品された食品は段ボールで保管せず、すぐに決められた保管場所に移動することも、
食中毒菌が持ち込まれるのを防ぐのに有効です。
2.殺す
食中毒菌の多くは熱に弱いため、中心温度75度で1分間以上、
ノロウイルスを殺菌するためには80~90度で90秒以上の加熱処理が必要です。
加熱できない食材は、効果がある薬剤で殺菌・除菌します。
食材によって加熱条件が異なったり、加熱では死滅しない菌への対処など、食材に合わせて管理方法を決めます。
3.増やさない
食中毒菌やウイルスを増やさないため、温度管理が重要となります。
冷凍庫はマイナス15度以下、冷蔵庫は10度以下、盛り付け場は20度以下というように
低温かつ一定の温度で管理することが重要です。
HACCPの重要管理計画に基づいて、メニューを「非加熱のもの」「加熱するもの」
「加熱後冷却し再加熱するものまたは加熱後冷却するもの」に分類し、温度管理の方法を決めます。
一般衛生管理による食中毒対策
一般衛生管理では、食中毒対策を以下のような方法で行います。
一般衛生管理はHACCPの土台となるものですので、定期的に見直しを行うことが大切です。
1.衛生的な手洗い
2.従業員の健康管理(手指の傷、体温、下痢)
3.トイレの清掃・消毒
4.洗面所、出入り口扉の消毒
5.そ族昆虫の駆除
6.細菌検査(検便)
7.整理整頓
8.冷蔵庫の温度管理、調理機器の点検・清掃
飲食店などでは、厨房で肉、魚介類、卵、野菜などのさまざまな食品を取り扱います。
そのため、厨房内の整理整頓、清潔維持、食中毒菌を持ち込まない、増やさない等の取り組みがポイントとなります。
また、盛り付けや提供のときは調理担当者だけでなくホール担当者も作業にかかわるため、
手指による食材や食器への汚染を防ぐことが重要です。
食中毒事故の発生を防ぐためには正しくHACCPを実施することが大切
HACCPの衛生管理による食中毒、ノロウイルス対策の方法をご紹介しました。
食中毒事故を起こしてしまうと、消費者への信頼を大きく損ねてしまいます。
HACCPは安全な食品を提供するために有効な取り組みですが、正しく行わなければ意味がありません。
食中毒事故を防ぐためには、専門家の力を借りながら正しくHACCPを実施していくことが大切です。