HACCPはすべての食品事業者を対象に2021年から制度化されています。
しかし、HACCPの目的や必要性が分かりにくく、本格的に取り組めていない、という方もいらっしゃるでしょう。
ここでは、HACCPの目的や必要性、取り組むうえでの注意点について解説します。
HACCPの目的
厚生労働省
厚生労働省はHACCPの目的を以下のように示しています。
食品衛生法改正の趣旨として
「我が国の食を取りまく環境変化や国際化等に対応し、食品の安全を確保するため、広域的な食中毒事案への対策強化、事業者による衛生管理の向上、食品による健康被害情報等の把握や対応を的確に行うとともに、国際整合的な食品用器具等の衛生規則の整備、実態等に応じた営業許可届出制度や食品リコール情報の報告制度の創設等の措置を講ずる」
また、改正の背景と趣旨に関して
・世帯構造の変化を背景に、調理食品、外食・中食への需要の増加等の食へのニーズの変化、輸入食品の増加など食のグローバル化の進展といった我が国の食や食品を取り巻く環境が変化
・広域的な食中毒の発生や食中毒発生の下げ止まり等、食品による健康被害への対応が喫緊の課題
としています。
農林水産省
また、農林水産省は、HACCP制度化の目的を
「食品の一層の安全を確保するため」
としています。
さらに
「近年、広域的な食中毒の発生や食中毒件数の下げ止まり傾向があり、事業者におけるより一層の衛生管理が必要です。
食品の安全性の向上は、消費者からの要請に応えることであり、食品業界の発展に不可欠なことです。」
としています。
HACCPの必要性
厚生労働省の発表によると、食中毒の約50%が飲食店で発生しており、より安全な食品の販売や生産が求められています。
日本は少子高齢化により国内消費需要は減少傾向にあります。
そのため、海外市場への参入を考えなければなりません。
しかし、海外はすでにHACCPの衛生管理システムによって食品を製造することが条件となっています。
さらに日本国内では若年層の減少で慢性的な人材不足となっているため、これまで従業員の経験や技によって製造してきたものを、新人が作っても同一の品質レベルと衛生レベルを維持して生産性を向上させる必要があります。
製品の安全性確保と事業強化推進のためには、食品事業者がHACCPを導入する必要があります。
HACCPの対象者
HACCPは2021年から原則としてすべての食品事業者が対象となっています。
しかし、事業所の規模により、HACCPに基づく衛生管理が難しい事業所はHACCPの考えを取り入れた衛生管理を導入します。
HACCPに基づく衛生管理
コーデックスのHACCP7原則に基づき、食品事業者自らが使用する原材料や製造方法等に応じ、計画を作成し管理を行います。
【対象事業者】
・大規模事業者
・と畜場(と畜場設置者、と畜場管理者、と畜業者)
・食鳥処理場(認定小規模食鳥処理業者を除く食鳥処理業者)
HACCPの考えを取り入れた衛生管理
各業界団体が作成する手引書を参考に、簡略化されたアプローチによる衛生管理を行います。
【対象事業者】
・小規模な営業者等
制度の対象外となる業者
原則としてすべての食品事業者がHACCPの対象となりますが、一部対象外となる事業者もあります。
・農業および水産業における食品の採取業
・食品または添加物の輸入業
・食品または添加物の貯蔵または運搬のみをする営業(冷凍・冷蔵倉庫業は除く)
・常温で保存しても腐敗、変敗その他品質の劣化による食品衛生上の危害の発生のおそれがない包装食品の販売業
・器具容器包装の輸入または販売業
・学校や病院等の営業ではない集団給食施設で、1回の提供食数が20食程度未満の施設
ただし、農業、水産業以外の事業者は食品事業者として一般衛生管理については実施しなければなりません。
HACCPに取り組むうえでの注意点
HACCPに取り組む際に気を付けることとして以下のようなことがあります。
従業員全員が「自分事」として取り組む
HACCPは全員が取り組んでいなければ意味がありません。
誰か1人でも取り組んでいない人がいると、食品事故の発生リスクは残ります。
そのため、従業員全員で取り組めるよう、研修や勉強会を定期的に実施し、常に意識できる環境が必要です。
また、HACCPに取り組む目的を繰り返し伝え、従業員が目的を共有したうえで取り組む必要があります。
日常的に取り組む
HACCPには認定資格があり、資格を取得するとHACCPへの取り組みを証明できます。
しかし、日常的な取り組みよりも資格取得に重きを置いてしまうと、認証取得のためだけの中身のないHACCP衛生管理システムになってしまいます。
それでは、食品事故の発生リスクを抑えられません。
実際にHACCPの認証資格を取得した工場が大規模な食中毒を起こしてしまったケースがあります。
このケースでは経営陣が認証を取るだけで満足してしまい、従業員までHACCPが浸透しておらず、従業員の知識不足が原因で食品事故を発生させています。
これは現場までHACCPの目的の周知と日常的な取り組みが浸透しなかったことが原因とされています。
このようなことが起こらないためにも認証取得だけを目的にせず、日常的にHACCPに取り組むことが大切です。
正確な記録がとれる仕組みをつくる
HACCPでは毎日の記録が重要になります。
しかし、記録や書類が多く存在し、業務が膨れ上がって、従業員が記録を取る習慣が浸透しない、というケースがあります。
しかし、正確なデータを取ることが食品事故を防ぐうえで重要なポイントとなりますので、日々の勉強会などで記録を取る目的や必要性を伝えていくことが大切です。
また、記録を負担なくつけられるように仕組みの改善や工夫が必要です。
食の安全のためにはHACCPへの取り組みが必要
HACCPは食品の安全性確保と事業の強化を推進するために必要なものです。
近年は気温が上昇していることも関係して、実際にHACCPにきちんと取り組んでいなかったことが原因で食中毒事件を起こした食品事業者もおり、その必要性はますます高まっています。
HACCPは認証取得のためなど、形だけ導入するのでは意味がありません。
従業員全員が毎日取り組み、記録を取って、不備がある点はルールを改善していき安全性を高める、ということを繰り返さなければなりません。
そのためには、社内全員で高い意識を持って取り組むことが求められます。
勉強会や研修会などは外部業者を利用しながら取り組んでいくと社内の負担も軽減できますので、上手に活用していくと良いでしょう。