食品衛生法の改正に基づき、2021年(令和3年)6月1日よりHACCPを基準とした衛生管理が制度化され、原則としてすべての食品事業者がHACCPを基準とした衛生管理に取り組むことになりました。
この記事ではHACCPを基準とした衛生管理について詳しく解説します。
HACCPを基準とした衛生管理とは
HACCPとはHazard Analysis and Critical Control Pointの略で「危害要因分析重要管理点」と訳されます。
HACCPを基準とした衛生管理は各原料の受け入れから製造、製品の出荷までの全ての工程において、健康被害を引き起こす可能性のある危害要因を科学的根拠に基づいて管理する方法です。
HACCPはもともと米国でアポロ計画の中で構想されたもので、宇宙食品の安全性を向上させるために取り入れられたものですが、それが後に各国に広まり、1993年には食品規格委員会がガイドラインを作成したと言われています。
HACCPは現在、食品安全性を向上させるための国際基準となり、制度化されています。
これに伴い日本でも2021年6月からHACCPが制度化されることとなりました。
従来の検査との違い
従来の検査方法では施設自体の清潔性を重要視していました。
施設やスタッフを清潔にして製造する環境を整えることで安全な食品を製造できるという考え方です。
更に従来式では抜き取り検査方式で品質を確認します。
抜き取り検査方式はランダムに抜き取って検査するため、そのほかに品質が悪いものが混ざっていても分かりません。
そのため、問題が起きると正常な商品も全て回収・処分が必要でした。
HACCPの場合、仕入れから出荷までの全ての工程で管理を徹底することにより、安心安全な食品を製造するという考え方を取り入れています。
どんな部分に危険やリスクがあるのかを分析し、リスクを排除するために重要な工程の設定を行います。
リスクマネジメントのために重要となる工程を洗い出し、しっかりと管理するシステムを作ることで食の安全性を高める、という考え方です。
対象となる事業者
HACCPの対象となる事業者は食品に関わる全ての事業者と営業者です。
以下に該当する場合はHACCPに基づく計画の作成、管理等が必要です。
1.大規模事業者(食品を製造、加工、貯蔵、販売、または処理する営業を行う者のうち、食品等の取り扱いに従事する者の数が50人以上である事業場)
2.と畜場(と畜場設置者、と畜場管理者、と畜業者)
3.食鳥処理場(食鳥処理業者(認定小規模食鳥処理業者を除く))
現段階では社内に管理部門があったり、施設の規模が比較的大きい食品事業者は上記のHACCPに基づく食品衛生管理を行い、そのほかの従業員が50名以下などの小規模事業者や個人経営の飲食店などは「HACCPの考えを取り入れた食品衛生管理」を行うことになっています。
HACCPを基準とした衛生管理の手順
HACCPを基準とした衛生管理は「HACCP導入のための7原則12手順」に沿って進めていく事になります。
7原則12手順の内容
手順1 HACCPチームの編成
手順2 製品説明書の作成
手順3 意図する用途及び対象となる消費者の確認
手順4 製造工程一覧図の作成
手順5 製造工程一覧図の現場確認
手順6「原則1」 危害要因(ハザード)の分析
手順7「原則2」 重点管理点(CCP)の設定
手順8「原則3」 管理基準(CL)の設定
手順9「原則4」 モニタリング方法の設定
手順10「原則5」 改善措置の設定
手順11「原則6」 検証方法の設定
手順12「原則7」 記録と保存方法の設定
事業者が想定しておくべき食の危害要因
食品等事業者は業種や規模に応じて「HACCPに基づく衛生管理」または「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のいずれかを実施する必要があります。
HACCPの衛生管理では原料の受け入れ、製造、出荷の全ての工程で食品の危害要因を取り除くことが求められます。
HACCPで想定する食の危害要因は主に「生物的危害要因」「化学的危害要因」「物理的危害要因」の3種類です。
生物的危害要因
生物的危害はその多くが微生物によって引き起こされ健康被害になり得る要因を指し、微生物以外にも寄生虫などにより発生するものも含まれます。
発生の要因は大きく分けて細菌、リッチケア、ウイルス、原虫、酵母、カビがあり、これらによって引き起こされるのは食中毒が多く、場合によっては深刻な被害をもたらすことがあります。
微生物の特徴は多岐にわたるため、事業所内で混入しうる生物的危害要因を把握しそれぞれの特徴に合った対策を行う事が重要です。
①細菌
細菌には食品と一緒に体内に入ると毒素を出す「細菌性感染型食中毒」の原因菌と食品に付着した細菌が増える際に毒素を作り、それが体内に入ることで起こる「細菌性毒素型食中毒」があります。
②リッチケア
リッチケアは細菌よりも小さく、節足動物の腸管に寄生し、ダニやシラミ、ノミなどによって媒介され、発疹性の熱性疾患を引き起こします。
③ウイルス
代表的なウイルスに「ノロウイルス」が挙げられますが、ノロウイルスは二枚貝に分布しているウイルスで人の腸内で増殖し、少量での感染、感染力の高さで知られています。
④原虫
原虫や寄生虫が原因となって食中毒を引き起こすこともあります。
主に食肉に寄生するトキソプラズマ、サルコシスティス、魚類に寄生するアニキサスなどがあります。
⑤酵母
酵母は毒素を排出せず、栄養価が高いことで知られていますが、酵母汚染というものも存在します。
酵母が製品に混入し増殖することで異臭のクレームが起こりやすくなります。
⑥カビ
元々食品に付着していたり、工場内に発生したカビが製品内に混入して健康被害をもたらすことがあります。
化学的危害要因
化学的危害要因は薬品や洗剤、農薬などの化学物質が誤って食品に混入し危害を及ぼす危険を指します。
化学的危害要因は物理的危害要因のように目視や金属探知機等で発見する事が出来ず、そのまま出荷してしまった場合、深刻な食品事故に及ぶ可能性があります。
化学的危害要因の多くは間違えて投入してしまった、というケースです。
そのため、容器を使い回さない、表示をきちんとする、材料の近くに保管しない、などといった保管や使用方法のルールの徹底が重要です。
物理的危害要因
物理的危害要因は金属片、プラスチック、ガラス片、石など、食品中に通常は含まれない硬質な異物の混入が代表として挙げられます。
これらの物質により口を切ったり、歯が欠けてしまうなど、消費者に怪我を負わせてしまうような異物を指し、最もクレームが多いのがこの物理的危害要因です。
工場に持ち込まれる汚染物質の約8割は足元からと言われています。
粘着マットやステップマットを使用して靴底のほこりを除去するなど、工場内に異物を持ち込まないことが大切です。
HACCPの導入は専門家のサポートを受けるとスムーズ
HACCPの衛生管理について解説しましたが、HACCP導入にはさまざまな準備作業が発生し、従業員にも協力を仰がなければなりません。
通常の業務を行いながらHACCPに取り組むのは事業所にとっても大きな負担がかかりますので導入の際は専門家のサポートを受けて進めていくとスムーズです。