世界的にHACCPの導入が進む流れの中で、日本でも食品衛生法が2018年6月に改正され、食品等事業者に2021年5月までにHACCPの導入が義務化されることとなりました。
HACCPに対応していない事業者や検討中の事業者の中にはいつから制度化されているのか、対応しなかった場合にどうなるのか疑問を持っている方もいらっしゃると思います。
そこで、HACCP制度化の背景やいつから実施されているのか、適用範囲の事業者、違反した場合のペナルティについて解説します。
HACCP義務化はいつから?
2018年6月13日に公布した食品衛生法の一部改正に伴い、HACCPの導入が制度化されました。
改正法の施行は公布日から2年を超えない範囲と定められており、2020年6月までの導入がリミットとなりますが、施行からさらに1年間の経過措置期間が設けられ、2021年5月末までに導入する、ということになりました。
2021年6月以降での注意点は保健所の営業許可更新時の監査です。
改正食品衛生法では、これまでの監査項目に「HACCPにおける記録の確認」が加わります。
HACCPでは衛生管理を計画通りに行うだけでなく、衛生管理の実施状況を「記録・保存」することが必須となります。
保健所の監査の際にHACCPの記録がないと指導が入るため、記録はいつでも見せられるようにしておくことが大切です。
HACCP制度の対象
HACCP導入の対象となる事業者は食品の製造・加工、調理、販売、飲食店など食品を扱うすべての事業者です。
食品工場、スーパーマーケットなどの小売店、個人経営の飲食店などもHACCP導入を行う必要があります。
その他、学校や病院等、営業ではない集団給食施設もHACCPに沿った食品衛生管理を実施しなければなりません。
ただ、大規模事業者と小規模事業者とでは人員や資金面で導入にかかる負担に差が出てしまいます。
そこで、食品衛生法では事業規模ごとに基準が設けられています。
・HACCPに基づく衛生管理(旧基準A)…従業員が50名以上の「一般事業者」
・HACCPに沿った衛生管理(旧基準B)…従業員50名未満、一般衛生管理の対応範囲内の「小規模事業者」
HACCP導入違反による罰則はあるのか?
現時点では導入違反による罰則はなし
現時点ではHACCPに則った衛生管理を導入しなかったことに対する罰則は特に定められていません。
しかし、食品衛生法には以下のような罰則が設けられています。
食品衛生法違反
・人の健康を害する食品または添加物、法令によって承認されていない添加物を使用した場合
・厚生労働省等が販売を禁止した食品を販売した場合
・厚生労働省の命令に反し、人の健康を害する食品、添加物を廃棄しなかった場合
・厚生労働省等の禁止命令を守らずに営業を続けた場合
これらの違反では食品衛生法により、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される可能性があります。
都道府県が定める基準に違反した場合
食品衛生法では、地方自治体が独自に条例を定め、違反した場合には2年以下の懲役、または100万円以下の罰金を科すことが可能です。
また、地方自治体の条例に違反した場合、営業停止処分などの行政処分が下される可能性があります。
そのため、HACCP導入時には食品衛生法のみならず都道府県が定めるルールや条例をきちんと確認しておくことが大切です。
HACCPを違反した場合のリスク
ご紹介した通り、HACCPを違反しても罰則は定められていません。
しかし、以下のようなリスクが考えられます。
企業イメージの低下
HACCPに基づいた衛生管理を行っているということは企業イメージアップに繋がります。
しかし、HACCPの仕組みを導入せずに運営している、HACCPに違反し都道府県から行政処分を受けた、という事実が消費者に知られた場合、「食品衛生管理の意識が低い企業だ」と見なされ、イメージダウンに繋がってしまいます。
HACCPを遵守せず食品事故が起こった場合、取引先との信頼関係も崩れ、今後の取引や新規開拓が困難となります。
海外企業との取引が困難になる可能性
HACCPを導入して衛生管理をしていない場合、今後海外企業との取引が困難になる可能性があります。
海外では既にHACCPの導入が進み、食品の安全管理を強化しています。
欧州では2006年に一時生産を除くすべての食品事業者に対してHACCPの対応が義務付けれています。
海外進出する際にHACCPの仕組みを導入していなかったり、HACCP違反が明らかになると輸出入が困難となり、海外進出が上手く行かない可能性があります。
HACCP導入のメリット
衛生管理の意識向上
HACCPの導入は経営者だけで行うことはできません。
事業所内で専門チームをつくり、衛生管理の知識を持つ人材を育成する必要があります。
HACCPでは各工程で衛生管理を行い、チェックと記録を日々行います。
問題が起こった場合には都度改善を行う必要がありますので、多くの従業員が衛生管理に関わることになります。
これにより、社内の従業員が衛生管理の知識を得る機械が増え、食品衛生管理への意識向上が期待できます。
生産性向上
HACCPでは食品製造の各工程で衛生管理の計画・運用を行います。
導入した当初は各工程ごとに危険因子の管理方法を検討・分析を行わなければなりませんので、設定する項目が多く煩雑に感じることもあるかもしれません。
しかし、一度見える化、ルール化した衛生管理は現場のどのスタッフにも実行可能となり、将来的には衛生管理の方法が簡潔なものとなります。
結果的に製造工程の中のムリ・ムダが省かれ、生産性向上と利益拡大が期待できます。
不具合時の迅速な対応が可能
HACCPでは製造工程内の各工程で発生しうる危険因子を事前にピックアップして対策方法を決めておきます。
万が一不具合が発生した場合でも事前に決めた対策方法に基づいて対応するため迅速な解決が可能です。
食品事故・クレームの削減
HACCPに基づく食品衛生管理では各工程で危険因子と管理方法を設定し、正しい管理方法で製造がおこなわれているか日々記録を行います。
工程の中で危険因子の混入・汚染を防止する対策を事前にできるため、事故やクレームの削減に繋がります。
専門家を交えて導入するのが賢いやり方
HACCPの制度化は既に始まっています。
しかし、HACCPの導入に当たって衛生管理計画の策定や書類作成などさまざまな作業が発生します。
日々の営業・運営を行いながらHACCPを導入するのに負担を感じている場合には行政書士などの専門家のサポートを受けながら進めていくとスムーズです。